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ホーム患者を生きる高齢者の歯:4 インプラント除去せずに

高齢者の歯:4 インプラント除去せずに

 東京都大田区の認知症の女性(93)は昨年4月、有料老人ホームで暮らすようになった。今年1月24日夜、介護職員が口の中をきれいにするため女性の入れ歯を外すと、血がついているのに気づいた。「口の中が痛い」という。

 連絡を受けた次女(64)は28日、予約を前倒しして日本大学歯学部付属歯科病院(東京都千代田区)を受診した。

 主治医の萩原芳幸・歯科インプラント科長(58)は入れ歯を外して口の中を診察した。痛がる女性にやさしく声をかけながら、生理食塩水で炎症を起こしている患部を洗い、抗生剤を塗った。萩原さんは女性の上あごの一番左にあるインプラントを指し、「一番痛いのはここですね」と言った。

 女性のインプラントは歯茎とほおの粘膜の境の所に埋められ、上部がわずかに出ていた。人工歯との間にある土台(アバットメント)は2012年の初診の時にはついていた。だが、その後一部が折れ、萩原さんは17年に取り除いた。歯茎の外にわずかに出ているインプラントの上部に周囲の肉がかぶさってきて傷つき、痛みを引き起こしていた。

 取れるものならインプラントを取ってしまった方がよかった。だが、除去手術は高齢の女性には負担が大きい。萩原さんは体調を見て処置を検討することにした。

 萩原さんはインプラントの上部にヒーリングアバットメントと呼ばれる円柱状の部品をつけることにした。周囲の肉がかぶさってこない一定の高さ(3~4ミリ)を保つためだ。ヒーリングアバットメントはインプラント手術で切開した歯茎が治るまでの間、一時的に付けるもの。これを代用した。

 女性がインプラントを入れたのは30年以上前で、手術をした歯科医院はすでに廃院になっていた。記録がなく、インプラントの種類や大きさの特定が難しかった。萩原さんは文献などを調べ、何とか類似の部品を見つけた。

 今月6日の定期受診で、女性の口の中の様子を改めてみて、その部品が使えることがわかった。「入れ歯も動きにくくなって安定すると思います」との萩原さんの説明に次女はホッとした。「食べ物をかめる状態が一日でも長く続いてほしい」(出河雅彦)

出典元:朝日新聞2019年3月14日朝刊 P.27「患者を生きる」 承諾番号:19-1318
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