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インプラントの咬合付与について

第44回日本口腔インプラント学会学術大会シンポジウムより

 第44回日本口腔インプラント学会学術大会シンポジウム(2014年9月,東京)にて,岩手医科大学歯学部補綴・インプラント学講座 近藤尚知先生,大阪歯科大学口腔インプラント学講座馬場俊輔先生が座長をつとめた上記シンポジウムについて概要を記載する.詳細は日本口腔インプラント学会誌 Vol. 29(2016) No. 2 を参考頂きたい.

(広報委員会,2017年6月)

1,歯根膜を考慮したインプラントの咬合調整
愛知学院大学 歯学部 有床義歯学講座 尾澤 昌悟先生
 インプラントと天然歯の違いは,歯根膜の存在による生体力学的な構造の相違であることは周知のことである.健全な天然歯の被圧変位量は25μmから100μmであるのに対して,インプラントでは垂直的に3~5μm,水平的には10~30μmしか動かないといわれている.歯根膜は鋭敏な感覚受容器であると同時に,咬合力等の負荷を顎骨に伝える際のショックアブソーバーとしての役割も果たしている.

 インプラントにはそのような構造はなく,咬合力は直接顎骨に伝えられ,骨伝導と咀嚼筋内の感覚受容器が代償的に機能している.しかし,感覚閾値は天然歯より高く,天然歯では10 g 程度の圧力を感知できるのに対し,インプラントでは100 g の圧力にならないと識別できないといわれている.ゆえにインプラントの咬合を付与する際には,負担過重にならないように注意すべきである.

 インプラントの咬合について,Misch らの提唱するImplant-Protected Occlusion の考え方は,理論的にはインプラントの上部構造を顎口腔機能に適合させるものである.科学的な裏付けは,未だなされてはいないものの,インプラント上部構造の咬合調整時には,歯根膜の存在を考慮しながら,噛みしめ時において天然歯とインプラントの調和のとれた咬合接触を図ることが必要であると考えられた.

2,固定性インプラント補綴における咬合調整を考える
九州大学病院 再生歯科・インプラントセンター 松下 恭之先生
 インプラント周囲には歯根膜がないため,インプラントと天然歯が混在する歯列においては,インプラントにオーバーロードが生じやすく,MISCH はインプラント部での応力減少を企図したImplant-Protected Occlusion なる咬合理論を提言している.カンチレバー,広すぎる咬合面,強すぎる咬頭傾斜角などは大きな曲げモーメントを発生し,インプラント周囲の骨吸収につながりやすい.これらを減弱するような調整が必要と考えられている点では現在でも通用するコンセンサスと考えられる.

 しかし,インプラント部の咬合接触を周囲天然歯部より歯根膜分をリリーフする咬合理論については,理論的に正しいとしても,適正な噛みしめ強度が不明であること,臨床で筋力を計測する簡便で有効な機械が普及していない,対合歯の許容能力も個々の歯によってかなり違っていることなどから,適正な咬合調整を実施することは難しい.一旦削りすぎてしまえば,隣在歯への負担が大きくなってしまう.そこで従来の天然歯の咬合調整と同様に行い,対合歯の違和感やスクリューの緩みが認められるようであれば,調整代を残しながら,患者の日常の咬合の順応するように慎重に咬合調整を続け,臨床的対応としている.

3,睡眠時ブラキシズム患者におけるインプラントの咬合管理
昭和大学 歯学部 歯科補綴学講座 馬場 一美先生
 睡眠時ブラキシズムは睡眠中に行われる歯ぎしりとくいしばりの総称で,咀嚼筋活動を主体とした非機能的運動である.睡眠時ブラキシズム関連の歯科的トラブルには枚挙にいとまがなく,特にインプラント治療を行う患者のブラキシズムには注意を要する.例えばオッセオインテグレーションが獲得される前にブラキシズムの力が特定のインプラント体に集中すると脱落のリスクが増す.また,オッセオインテグレーションが獲得された後であっても,ブラキシズムによると考えられる上部構造の破損やスクリューのゆるみなどの問題が頻繁に報告されている.

 歯根膜をもたないインプラントの上部構造,特に最後臼歯の補綴装置咬合面には力が集中するため特別な配慮が必要となる.高度な知識と技術を駆使して渾身のインプラント治療を行っても,ブラキシズムに対する配慮が必要である.睡眠時ブラキシズムを合理的かつ確実に抑制する方法はないが,臨床的には想定されるリスク因子への対応とブラキシズムの力から顎口腔系を護ることを主眼としたオクルーザルスプリント療法が併用される.

 ここで,ブラキシズムによって顎口腔系に生じる力の分布は咬合接触関係によって規定されるため,スプリントに付与する咬合接触関係には注意を要する.咬頭嵌合位におけるスプリントは,歯列全体に咬合力が均等に分配されるように調整し,側方咬合接触については,急峻な犬歯誘導を与えはせず,上顎フラットスプリントを用いる.スプリント療法により,睡眠時ブラキシズムへの対応を行うが,当然,持続的なメインテナンスは必要であり,良好なプラークコントロールの維持ができていれば,インプラント周囲炎のリスクは制御できると考えられる.

4,日中のブラキシズムがインプラント上部構造に与える影響
岩手医科大学 歯学部 補綴・インプラント学講座 田邉 憲昌先生
 口腔インプラント治療の成功とは,インプラント体がOsseointegration することだけでなく,患者の満足する機能性や審美性の回復,そしてそれらを長期的に維持・安定させることを指している.一方,近年,口腔インプラント治療における合併症として,ブラキシズムなどの口腔悪習癖や過大な咬合力に起因するスクリューのゆるみやインプラント上部構造の破損等が問題となっている.

 特に上部構造の破損は,患者にとって術者による何らかのミスを連想させやすいことから,装着後に短期で破損などが起こると術者側への不信感につながる可能性もある.これらを未然に防ぐには,術前の検査で悪習癖をとらえ患者に情報提供することが望ましい.

 一般にブラキシズムといえば夜間のグラインド運動を中心としたものが注目されがちであるが,近年,覚醒時に発生するクレンチングを中心とした非機能運動についても,その特徴や問題点が明らかとなりつつある.今後,日中のブラキシズムの原因解明が,口腔インプラント治療におけるさまざまな臨床上の問題を解決する手掛かりになるものと考えられる.


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