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骨増量法の現状と未来

東京医科歯科大学 歯学部附属病院インプラント治療部
春日井 昇平

『 はじめに 』

 歯科インプラント治療は、歯牙欠損による口腔機能障害を回復する有効な治療方法となっている。しかし、歯牙欠損部に充分な骨量がない場合には、歯科インプラント治療が困難となることが多い。骨増量の目的で種々の外科的手法が工夫され臨床応用されている。
 すでに現在臨床応用されている骨増量法および、臨床試験段階あるいは動物実験段階にある骨増量法について概説する。

◆ 骨移植および骨代替材

 自家骨移植は臨床的に有効な方法であり、骨増量法のゴールデンスタンダードと言われている。しかし、骨を採取部位への侵襲と、採取できる骨の量に限界があることが問題となる。他家骨移植として用いられているDFDBa (dimineralized freeze-dried bone allogous)は死体から採取した骨を脱灰凍結乾燥した材料である。骨提供者のスクリーニングと骨の処理過程から推測してDFDBaを使用することによる感染の危険性は極めて低いと考えられる。一方、種々の形状のハイドロキシアパタイトやβ-TCPが骨代替材として使用されている。これらのリン酸カルシウム系材料は骨伝導能に優れているが、骨誘導能がないので骨増量材として単独で使用することは難しい。そのため、自家骨移植や他の骨増量法(GBR、PRP等)と組み合わせて使用されることが多い。

◆ GBR ( Guided Bone Regeneration )

 歯周組織の再生法の一つであるGTR (Guided Tissue Regeneration)と同様に、人工の膜を用いて骨再生のスペースを作る方法である。ePTFE(GoreTex)やチタン薄膜の非吸収性膜、生体内で分解するコラーゲンやPLA/PLGAの吸収性膜が使用されている。GBRは、移植骨、骨代替材、PRP等と併用しておこなわれる場合が多い。確実な方法であるが、膜の露出等により感染を起こし骨を失うこともあるので慎重におこなう必要がある。

◆ 仮骨延長法 ( Distraction )

 仮骨延長法は、骨に潜在している治癒力を利用して骨を延長するユニークな方法であり、1960年代に旧ソ連の整形外科医Ilizarovにより確立された。最初に骨を切断し、装置を装着し一定期間固定した後、装置を用いて切断面を骨の長軸方向に一定速度で離開する。必要な長さまで骨を延長し、その後固定して仮骨が成熟するのを待ち、装置を除去する。この方法は、骨移植が不要なこと、手術侵襲が比較的少ないこと、骨周囲組織を同時に延長できることが利点である。現在、顎堤挙上用の種々の装置に加え、顎堤幅を増大できる装置の入手も可能である。確実な方法ではあるが、特殊な装置を必要とすること、ネジを定期的に回転させる必要があること、仮骨延長期間は補綴物を装着できないことが問題となる。

◆ BMP

 1960年代にUCLAのUristは、脱灰した骨基質を動物の皮下や筋肉内に埋入すると、骨組織が誘導される現象を発見した。Uristは、脱灰骨基質中のある種の活性物質が、皮下組織や筋肉内に存在する未分化間葉細胞を骨芽細胞に分化させたと考え、このような作用を示す活性物質をbone morphogenetic protein (BMP)と名づけた。1988年にBMPのcDNAクローニング、リコンビナントタンパクの作製とその骨誘導活性が報告された。現在BMP2 とBMP7を用いた歯科や整形外科領域での臨床応用に関する研究がおこなわれている。現時点ではヒトにおいて骨を増加させるためには多量のBMPが必要であり、臨床応用するためには解決されなくてはならない点が多いようである。

◆ 成長因子

 FGF, TGF-β, IGF-1, PDGFなどの成長因子は異所性の骨誘導能を示さないが、骨増加作用を示す。特にFGF2は、骨折部に適用すると骨折の治癒を促進することから整形外科領域での応用が期待されている。FGF2は難治性潰瘍の治療薬として既に臨床応用されている。また、現在FGF2の歯周組織再生への効果について臨床試験が行われている。近い将来FGF2が歯科領域での局所的骨量増加に使用される可能性は高いと考えられる。

◆ PRP ( Platelet-Rich Plasma )

 血管が損傷を受けると、血小板の凝集に続いて血液の凝固が起きるが、血液凝固塊は治癒機転へのシグナル分子と治癒の場を提供している。血小板中はPDGF、TGF-β、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)等を含み、PDGFは細胞増殖作用、TGF-βは基質増加作用、VEGFは血管新生作用を示す。血小板は凝集すると、これらの成長因子を放出する。患者の血液から血小板を濃縮しゲル化させたものをPRPと呼ぶ。PRPを用いることにより、血小板含有の成長因子を多量に供給することが可能であり、治癒促進が期待できる。骨欠損部に適用するにはPRP単独では強度的に脆弱であり、骨代替材料あるいは自家骨と混入させて使用することになる。PRPを自家骨あるいはDFDBaと併用した臨床例が報告されている。

◆ 化合物の応用

 骨量増加作用を示す化合物としてProstaglandin E類(PGE)、スタチン、TAK778がある。PGEは循環改善薬、胃潰瘍治療薬、スタチンは高コレステロール血症治療薬であり、TAK778は武田薬品の新規化合物である。このような骨増加作用を示す化合物は、製造が容易であり安価であることが利点である。既に患者に全身投与されているPGEやスタチンの安全性は確認されており、これらの化合物の局所適用における安全性は高い。したがって、近い将来これらの化合物が骨の増量に臨床応用される可能性は高い。

◆ 遺伝子導入法

 遺伝子導入法を用いて、骨の再生に必要なBMPなどの誘導因子を細胞に産生させ、骨の再生を促進する方法がある。現在遺伝子導入した細胞を動物に移植して骨組織を誘導することが可能になっている。一方、発現させたいタンパク(BMP等)の遺伝子を組み込んだ発現プラスミドDNAをコラーゲンと混和し移植すると、移植部位に遊走してきた細胞がプラスミドDNAを取り込み目的のタンパクを産生する(図1)。このような手法を用いることにより、実験動物の骨欠損部の治癒が促進する。ウイルスベクターを使用する遺伝子導入法は遺伝子導入効率が高い反面、現時点では安全性に問題がある。しかし、プラスミドDNAを用いる遺伝子導入法は安全性が高いと考えられる。現在プラスミドDNAを使用して血管新生の遺伝子治療の臨床試験がおこなわれている。骨増量に遺伝子導入法が応用される日も近いかもしれない。

図1

◆ 細胞治療

 どのような細胞にも分化可能な細胞を幹細胞といい、幹細胞を組織再生に使用する細胞治療が注目されている。特に骨髄から幹細胞様の細胞が得やすいことから、骨髄細胞の再生医療への応用が期待されている。骨髄細胞を細胞培養により増加させ、骨芽細胞に分化させることができる。この細胞とリン酸カルシウム系の材料を組み合わせ、骨欠損部に移植する方法の有効性が報告されている(図2)。骨欠損が大きく充分量の移植骨を得ることが難しい症例において、細胞治療は特に有用であると考えられる。

図2

『 まとめ 』 組織再生にはCells〔細胞〕、Signal Molecules〔シグナル分子〕、Scaffold/Matrix〔足場〕の3要素が必要であり、これを組織再生のTriadと呼ぶ。上記の骨増量法をこのTriadに重ね合わせた(図3)。シグナル分子を骨増量に応用する試みが多いが、臨床的に有効な自家骨移植はこの3要素を含んでいる。一方、GBRや仮骨延長法は組織の再生能力を巧みに利用する方法であり、このTriadの中に位置付けることは難しい。臨床の場において必要な骨の量は症例によって異なり、その症例に合った骨増量法を選択することになる。上記のそれぞれの骨増量法がカバーできる骨増量の範囲を図4に記入した。また現在実験段階の骨増量法は推測で記入した。自家骨移植が骨増量法のゴールデンスタンダードである状況は続いており、簡便かつ確実であり外科的侵襲の少ない骨増量法の登場が望まれている。

図3

図4

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